「人」がつくる「もの」、「もの」がつくる「人」

  Posted on Aug 16, 2012 in 建築考察, デザインについて

最初の投稿には、仕事や過去の作品の話よりもっと幅の広い話題があれば、と考えているうちに2ヶ月以上が経ってしまいました。 そんな中、先日行った2つの展示がとても素晴らしかったので、それらについて少し書きたいと思います。 共に「デザインとは?」と改めて考えさせられる内容でした。

一つ目は、TOTOギャラリー「間」で開催されている「スタジオ・ムンバイ展:PRAXIS」です。 この展示ではインド建築家のビジョイ・ジェイン氏率いるスタジオ・ムンバイのワークショップがギャラリー内に再構築されています。 まずギャラリーに入って驚くのは圧倒的な展示物の量とその多様性です。 模型、スケッチ、図面、モックアップ、工具、写真、映像などが所狭しと展示されています。 例えば、入り口すぐの棚には、高層マンションの模型と何種類もの扉引き手のプロトタイプとサンゴ礁の化石(のようなもの?)が一緒に置いてあり、別の場所には敷地模型とカラフルなインドテキスタイルの写真と壁面タイルのサンプルが並んでいるといった様です。 そしてギャラリー内を巡ることで、たくさんのものに囲まれながら作業をすすめる所員たちの姿を想像することができます。 また、たくさんの映像記録には我慢強いインドの熟練工たちの様子なども映されていて、現地の雰囲気や活気が伝わってきます。 その中でも、素材や工法を含め、模型をあたかも本物の建築を建てるように丁寧に制作している様子を記録した映像がとても印象的でした。 使用されている素材も金属や木材、プラスチックと様々で、あらゆる角度からデザインスタディを繰り返していることがよくわかりました。

日本の都市部で建築をデザインする場合、まずは用途地域、建ぺい率、最大容積などを抑え、それから意匠にとりかかるのが一般的なアプローチです。 建築法規を通し厳しい規制がかけられているため、ある程度一方通行的なデザインプロセスにならざるを得ない部分があります。 よってプロジェクトステージに従い、机の上に並ぶ模型のスケールや図面の種類、建材、建具のサンプルなどが当然変わっていきます。

これに対しスタジオ・ムンバイの制作環境から読み取れるのは、 良い意味でヒエラルキーや優先順位の無いデザイン手法です。 言い換えれば、このスタジオでは風景、文化、フォルム、間取り、気候、ディテール、色、構造、素材、家具など様々なデザイン要素が並行して考え抜かれているということです。 これは決して容易なことではなく、柔軟なデザイン思考と明確なデザイン思想があってこそ実現されるものです。 規模は違いますが、込められたメッセージは2005年にロンドンのテートモダンで開催されていたヘルツォーグ&ド・ムロンの展示と共通する部分が多いと感じました。

そして、やはり注目すべき点は建ち上がった建築のもつ説得力です。 熟練の職人たちがつくり上げるということで、アーツ・アンド・クラフト的なものを想像してしまいがちですが、スタジオ・ムンバイのデザインはそのイメージを裏切る非常に洗練されたものです。 プロポーションのとり方や素材の組み合わせ、空間のメリハリなどはとても現代的で刺激的です。 加えて、日本の都市部ではなかなか感じることのできなくなった、人間と建築と自然との何か根源的なつながりを感じることのできるデザインがそこにはあります。 ブランドや価格、工期や納期に追われる建築には見られない豊かさが詰まっています。 ある意味とても贅沢な建築です。 僕はこういうものづくりが大好きです。

さて、東京ではどういったアプローチをしていくべきでしょうか。

 

 

2つ目の展示は、21_21 DESIGN SIGHTで開催されている「テマヒマ展<東北の食と住>」です。 「食と住」に着目し、東北のものづくりの特色や魅力、考え方を伝えています。 これについては、「ただ本当に素晴らしい展示だ。」と言うことに留めておきたいと思います。 というのは、展示に行かれた際の驚きや感動をそぎたくないからです。 ウェブサイトにもイントロダクション映像や展示の説明がのっていますが、個人的にはそれも見ないで行って欲しいと思います。 とにかく全ての人に見てもらいたいと思う展示です。

また、ものをづくりをプロデュースする側の人間としても、今回の展示セットアップは非常に勉強になります。 キュレーターは佐藤卓氏と深澤直人氏。 大根と杉の系譜から始まる展示はまさに完璧な構成で、キュレーションってこういうことなんだ、デザインってこういうことなんだ、と素直に感動します。

僕個人の感想は展示が終了してから改めて書きたいと思っています。

 

最後に。 2つの展示に共通するテーマは「人」がつくる「もの」、そして「もの」がつくる「人」にあるのではないかと感じました。 佐藤氏が言っているように、合理性と経済性ばかりが追求される中で、テマやヒマをかけるものづくり意味を考えさせられます。 どちらのギャラリーも六本木にあり、徒歩5分と離れていません。 週末にでも是非足を運んでみて下さい。 特にテマヒマ展は8月26日(日)までとなっています。 興味をもたれた方はお早めにどうぞ。

それでは。