おたふくわたウィンドウ製作風景
もうすぐ展示入れ替えとなりますが、おたふくわたさんのショーウィンドウの製作風景を。
あるアイディアが一つの形として出来上がるまでの過程を感じてもらえたらと思います。
造形家のワシズタケヒコ氏との共同製作です。
プロジェクト詳細はこちらを御覧ください。
デザインの方法は人それぞれで絶対的に正しい方法も間違っている方法も無いと思っています。
それを踏まえた上で私が気をつけているポイントが一つ。
それはバリエーションに溺れないこと。
1000個のアイディアから1つの正解を選ぶよりも、10個の中から選んだ1つをどう正解に持っていくかに力を注いだほうがいいデザインが生まれると思っています。
経験を積み、感性を磨くことでこの最初の10のアイディアの精度も上がってくるはずです。
ブレーンストーミングは大切ですが、その先の段階により集中したいと考えています。
これはスポーツの戦術と同じかもしれません。
今回デザインの依頼を受けた際、その方向性を決めるために全く異なる2つのアイディアを考えました。
座布団のからくり工場をイメージしたややメルヘンチックなものと、5つのペンダント照明を基調としたシンプルなものです。
検討の結果、後者のデザインを進めることとなりますが、その最初のイメージを紙に落としたのが下の案です。
おたふくわたさんの持つ和のイメージを、竹球の照明をアクセントに使い、シンプルかつモダンに表現しました。
当初、納期が非常に厳しかったこともあり、加えるよりもそぎ落とす方向でディスプレイの説得力を持たせたいと考えました。
綺麗にまとまっていますが、少しドライな感じもします。
ここがスタート地点です。
次に、どのように好奇心を煽る奥行きや深みを持たせられるかを考えました。
店舗入口のアイキャッチャーとして重要な役割です。
その際参考にしたのが、建築家の内藤廣氏が監修をしている六本木ミッドタウン内の「とらや」です。
大きな暖簾が伝統と格式を感じさせ、無駄の無いクリーンなディテールが現代的で上品なイメージを作り上げています。
何よりも暖簾の隙間からのぞき見える店内の様子が印象的で、お店の内側へと興味を引き込みます。
そこで恐れずに「とらや」さんのスタイルを今回のディスプレイに当てはめてみました。
明らかにイマイチです。
商品がほぼ隠れてしまうだけでなく、プロポーションも銭湯の入り口のようで相応しくありません。
加えて平面的な印象からも脱却できていません。
ただ、全てが悪いというわけではなく、あえて隠すことによって奥行きを予感させるという手法からは大きなヒントを得ることができました。
その後、エスキースを重ねたどり着いたのが次の模型です。
商品と照明を取り巻くメッシュ生地にランダムに丸い穴を切り抜くことで、視覚的なズレやヌケを狙います。
これにより商品ディスプレイにほど良い強弱を与え、また見る角度によって常に表情を変化させる、そんな仕掛けです。
並行して各アイテムの干渉が無いよう3Dを用いた寸法確認も行っています。
製作はワシズ氏の工房でモックアップを立ち上げ行いました。
実際に使用するものを手にしながら、より良いウィンドウを目指し試行錯誤を重ねました。
遊び過ぎず真面目過ぎずのバランスを探り、親しみやすくもポップになりすぎないよう詳細を詰めていきました。
下の写真を見ると丸型の穴を切り抜くことによりグッと奥行きが深まったのがわかります。
照明を吊るす高さ、商品を乗せる台との関係、ロゴや店舗情報の配置は全体のバランスを見ながら決めました。
そして完成です。
ウィンドウデザインは初めての経験でしたが、おたふくわたさんにも大変喜んでいただきほっとしています。
またワシズ氏と意見を出しあいながら進める共同作業は非常に楽しいものでした。
造形家としての視点は設計側のそれとはまた異なり、勉強させていただくことも多くありました。
その中で最終的に出来上がったウィンドウは、お互いの色をうまく出せたものとなり、とても良かったのではと思っています。