建築と建物

  Posted on Jul 29, 2018 in 建築考察
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サヴォア邸 ル・コルビュジエ 1931年

日本の建築界では、”建築”と”建物”との間に線を引き、両者を分けて考えることが多くあります。これはいつ頃から始まったのでしょうか。

英語の”Architecture”という言葉に、”建築”という漢字をあてたのが、明治期の建築家・建築史家の伊東忠太であったことは有名ですが、その際に、もう片方の”建物”という概念がすでに存在していたのかどうか、とても興味深いところです。

少し言葉の意味が行ったり来たりしてややこしいのですが、イギリスでは、”Architecture”とは「(日本で言うところの)建築というジャンル、もしくは職業、もしくは総称としての建築やその概念」を意味し、”Building”は「建築物単体」を指した単語として使います。(アメリカや他の英語圏では違うかもしれません。)

例えば、”ル・コルビュジエの建築”を総じて話をする場合や、”ゴシック建築”をジャンルとして取り扱う場合には、”Architecture of Le Corbusier”や、”Gothic Architecture”とします。一方で、ある特定の建築物についての話をする場合は”Building”を用います。つまり、サヴォア邸も、ノートルダム大聖堂も、桂離宮も全て”Building”です。

このように、”Architecture”と”Building”とは、そもそも並列して使う単語ではないので、イギリスにおいて、日本で言うところの”建築”と”建物”の二つを分けて考えるということは、学校で建築を学んでいた際も、社会に出て仕事をするようになってからも一切無かったように思います。

これは言葉の使い方というよりも、建築家の社会的責任が大きく問われるイギリスでは、”建築”と”建物”を分けるという、その考え方自体が倫理的に受け入れられにくいという背景もあると思います。

つまり、英語の”Architecuture”と日本語の”建築”、そして、英語の”Building”と日本語の”建物”、これらの単語の意味や用法は必ずしも一対一対応していないのです。

海外の建築本や英文の記事を読む際に、この点を押さえておくと内容がわかりやすくなる場合がありますが、それ以上に、”建築”をめぐる社会性の根本的な違いが、この二つの単語の用法に現れているように感じます。