2020年を振り返って

  Posted on Dec 29, 2020 in 建築考察

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難しい一年でした。
実際には「でした」と過去形にすることはできず、東京では日に日に状況が悪化しています。

今年も終わりです。
短い文章ですがここに2020年を振り返っておこうと思います。

夏のご挨拶を除けば、前回の投稿は2月。
唐突に世界の成り立ちが変わり、これまで経験の無かった種類のプレッシャーの中、あっという間に日々が過ぎていきました。
たくさんの出来事があり、季節の移り変わりは感じながらも、季節感をあまり感じることの無い、どこか空疎な年でもありました。
同じように感じられている方も多いのではないでしょうか。

この一年、インスタグラムの更新だけが対外的な事務所の存在証明のようになっていましたが、今年は無事にAM邸(ハイムもりのはら)、KO邸と2物件のお引渡しを終えました。
両プロジェクトとも、今まで自分が建築に対し長く考えていた、「あらゆる条件をデザインの契機として捉える」ということを、ようやく具体的な形にすることができるようになってきたという手応えがありました。(近日中に詳細をアップする予定です)
この経験値をどう次の設計へとつなげていくのか、自分自身でもこれからを楽しみにしています。

AM邸外観

AM邸外観

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AM邸内部

仕事についての変化は、やはり、働き方が大きく変わった、大きく変えざるを得なかった、という点が挙げられると思います。
これまでは、事務所で働くことに強い喜びを感じながら、大量の建築本と模型と図面に囲まれた空間で自由に設計を続けてきました。
それが突如、自宅の狭い部屋で、常にパソコンの画面に向かっての作業ということになると、想像力は思うように羽ばたかず、新鮮な思考を保つことにも苦労をしました。
参考にしたい本や資料の多くが手元にないということがフラストレーションとなり、事務所に行くにしても混雑した電車に1時間と、それはそれでストレスがかかりました。
日々、政治に対する不信感が募り、気持ちへの大きな負担となっていったことも間違いありません。(残念ながらこれは今も変わりませんが)
しばらくすると、背中に鋭い痛みが出て痛み止めの注射を打たなければ動けなくなってしまったり、何もきっかけがないところでぎっくり腰になってしまったりと、明らかに身体の不調を感じるようにもなりました。

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そこである時、思い切って、デザインのほぼ全てを現場で判断し現場で決めるという設計方法へと切り替えてみました。
僕はほとんどの場合、模型を通してデザインを考えるのですが、ここで取ったのは、模型を作るかのように実際の建物をデザインしていくという方法です。
デザインのコミュニケーションも模型が中心となり、現場には現場図面に合わせ現場模型を常に置くようにしました。
朝から晩まで、週のほとんどの時間を現場で過ごし、一日の光の移ろい、季節や天気による空間の質感の変化、風の通り、近隣の人たちの様子、緑の変化、そういったもの全てを、実際の空間の中に身を置きながら感じ、建物のデザインを考えました。
結果的に、空間を五感で感じながらデザインをするという最も基本的なところに一度立ち返ることができ、大学も含めると建築に携わるようになりそろそろ20年というタイミングで、非常に重要な経験を積むことができたように思います。

この設計手法は、間取りのような押さえどころは事前に確実に押さえながらも、最終的な建築の形として何が出てくるのかはっきりとわからない(僕自身もギリギリまでわからない)という状態で工事が進みます。その中で、僕に全幅の信頼を寄せ、全てを任せてくださったお客様には、本当に感謝の気持ちしかありません。

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KO邸外観

KO邸内部

KO邸内部

 逆に、今年の一番の反省点は、在宅勤務が増え通勤時間も減ったので、その分、読書量が増えるかと思いきや、むしろかなり減ってしまったということです。
このことを友人に話したところ、その友人も同じだそうです。
場所や空間の移動と読書量とは、案外比例するものなのかもしれません。

僕はあまり他の建築家とのつながりが無いのですが、皆さん、今年はどうお仕事をされていたのか、とても興味があります。
いつか様々な方とお話する機会があれば嬉しく思います。

 

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さて、今は現場が動いている物件が無いため、再び在宅勤務としています。
そして、夕方に近所の散歩をよくするようになりました。
遠くに富士山が見える丘が2箇所あり、毎回足を止め、空の様子をしばらく眺めます。
空はいつも異なる表情を見せてくれますが、特に夕日が落ちる瞬間はドラマチックそのものです。

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昔から思うのですが、一般的に建物を建てるという行為は、人々が目にするこの美しい空を、少なからず建物の外観で置き換えることになります。
それはものすごい責任です。
この空との関係を感じるだけで、外観のデザインを検討する際に背筋が伸びるような気がします。

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何かとりとめもなく書きました。

建築家の文章はそのまま建築家の建築です。
来年は少し時間をかけて文章に取り組みたいと思っています。

本年も大変お世話になりました。
みなさまどうぞ良いお年をお迎えください。