世界の広がり方
竹花加奈子さんのチェロ・リサイタルに行ってきました。
竹花さんは、僕が帰国後とてもお世話になっている先輩の奥様です。
場所は銀座の王子ホール。
これまでの僕とチェロとの接点といえば、セロ弾きのゴーシュくらいのもので、クラシックのコンサートに行くこと自体かなり久しぶりでした。
もちろんチェロのリサイタルは初めてです。
チリン、チリン。
チリン、チリン。
鈴の音がなると、客席が静まり暗転。
竹花さんとピアノの竹井詩保子さんが出てこられました。
普段お会いする時とは明らかに違う、凛とした空気が漂っています。
そしておもむろに曲が始まり、チェロの音が響き渡ります。
鳥肌が立ちました。
前列に堂々と陣取る勇気はなく、後の方に隠れて座っていたのですが、その距離が無いかのように繊細で厚みのある音に包み込まれました。
リサイタルは竹花さんのオリジナル曲と過去の作曲家の曲とを織り交ぜた構成で、実のところ、僕が耳にしたことがあったのは、サン=サーンスの「白鳥」の冒頭10秒程度。
そして、アンコールでソロ演奏された、小学校の下校時刻になると必ず流れていた曲。
とても有名な曲ですが、クラシックに疎い僕には曲名がわかりません。
残念ながらアンコール曲なのでプログラムにも載っていません。
ただ、当時の午後3時の空気が一瞬にして蘇りました。
竹花さんのオリジナル曲は、そのお人柄がそのまま現れたような、優しく温かみのあるものでした。
真剣にものを作る人の思いは、準備のない受け取り手にもしっかり響くと改めて認識しました。
このことは建築やアート、スポーツも同様だと信じています。
そして、昨日は様々な楽曲を、アンコールと合わせて計15曲を聴かせていただきました。
その中で、僕が一番衝撃を受けたのがドビュッシーのチェロ・ソナタ。
正直に言うと、今までの僕の音楽パレットには無い、別世界の曲でした。
聴いていて次の展開が全く読めず、本当にわけがわかりません。
しかしながら、そこに不快な印象は無く、逆にそれが不思議と心地良く感じられました。
途中、竹花さんがボン、、、、ボン、ボン、、ボンと弦を指で弾くと、竹井さんがジャン、ポロロン、、、ジャっと妙な合いの手を入れます。
今まで姿勢よくピアノを弾かれていたのに、この時ばかりは背中を丸め、まるで鼠を狩る猫のごとく、するどく右手で「ジャ」っとやるわけです。
本当にわかりません。
「何故この間合い?」
素人目(耳?)にはもう適当に弾いているのではないかと思ってしまうほどです。
でもそれがなんとも言えず魅惑的で、どんどんと惹きこまれてしまいます。
そして、しばらくすると唐突に曲が終わります。
断面切りっぱなし。
なんだかとても刺激的な世界観です。
演奏のテクニックについて述べることはできませんが、何か絶妙なバランスを保った息遣いがあったことは間違いありません。
お二人の演奏は、好奇心を煽る、強く印象に残るものでした。
その音の中で自分の感性が研ぎ澄まされる感覚がありました。
音楽家は楽譜を見ただけで、このような音の世界が心の中にが広がるのかと思うと本当に頭が下がります。
僕は建築図面を見ても、そこまでの広がりは持てていません。
まだまだ勉強です。