転がっていたきっかけ

  Posted on Feb 19, 2021 in 建築考察

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日付が変わりそうですが、今日は誕生日でした。43歳になりました。僕は建築を学びだすのが少し遅かったので、今年、ようやく建築に携わって20年目を迎えます。

実は高校生の頃にはもう建築家になりたいと思っていましたが、大学のラグビー漬けの毎日の中で成績は最下層を漂い、3年生からの専門学部を選ぶ頃には、その夢はとっくに諦めてしまっていました。語るのも恥ずかしいほどでした。

その後、僕は当たり前のように留年し、5年生(体育会の部活ではどこにでもあった言葉だと思います)として相変わらずラグビーを続けていたのですが、部活が夏オフの間はあまり研究室に行くこともなく、就職活動をするでもなく、当時、上野四丁目の交差点の角にあったマクドナルドで、デイリーコンサイス英和辞典を片手に英字新聞をパラパラと眺め、何件か隣のゲームセンターでコインゲームに数百円を使い、焦点の定まらないまま、なんとなく一日の時間を潰すという、振り返ればいかにも若者らしい時間の持て余し方をした生活を繰り返していました。

そんなある日、いつものごとく谷中界隈をふらふらと歩いていたところ、たまたま目に入った黒い建物が朝倉彫塑館でした。正直なところ、この時なぜ見学することにしたのかは記憶にないのですが、たぶん五感で惹かれるものがあったのだと思います。アトリエの空間に入った瞬間、自分の中で間違いなく何かが変わりました。世の中の解像度が上がったような感覚でした。そして、一通り建物の空気を吸い、座敷の畳に座って中庭を眺めていると、ふいに、ため息と涙が同時に溢れました。「そっか、自分はまだ建築がやりたかったんだ。」と再認識した瞬間でした。

その日から、僕は改めて建築家を目指すことに決め、翌年イギリスへと渡り、グラスゴー美術大学の建築学科に入学することになります。

人生、どこにきっかけが転がっているかわかりません。

大学時代、毎日使っていた根津駅、そして自分の建築の原点である朝倉彫塑館のすぐ近くに、今は事務所を構えています。全く偶然の巡り合わせなのですが、この不思議なご縁が、日々の静かな喜びとなっています。