ボツ案
昨晩湯船に浸かりながら、ブログに何を書こうかと考えていました。
そこで思いついたのが「ボツ案」について。
ボツ案とは文字通りボツとなったアイディアです。
一つの建築提案を作り上げるにあたり、かなりの数のボツ案が出ます。
特にプロジェクトの方向性を定める段階では相当数のアイディアを出し検討を重ねます。
そしてボツの山が築かれます。
でも、これはおそらくどの分野でも同じですよね。
ここで単にボツ案と言っても様々な種類があり、ボツにした理由もその時々で違います。
予算や技術的な問題、法規の縛り、時間の問題だったり。
建築的なインテリジェンスに欠けていたり。
そもそものアプローチがずれていたり。
時間切れになってしまったり。
単純に意匠にピンと来なかったというだけの場合もあります。
ただこのボツ案、その時の条件に合わなかったというだけで、実はデザインの可能性が詰まっている場合も多くあります。
ぱっと見の美しさや面白さだけでなく、建築システムや考え方として興味深いものもあったりします。
そこで、これらを少しずつ紹介していこうかなと。
まあ、個人的に愛着のあるボツ案もたくさんあるので、それらを是非お見せしたいという気持ちもありまして。
基本的には日の目を見ることのない提案ばかりですから。
写真はAAスクールの4年生(日本での修士1年)の時に作った模型。
もう6年も前の話です。
当時はバングラデシュの首都ダッカにおける都市スラムの研究をしていました。
貧困、衛生問題、住環境、異常な人口密度、治安など様々な問題がある中で、まずは人口密度を下げるために街を縦方向に伸ばしてみてはどうか、というアイディアを模索しました。
模型は1/3,000スケール、実際には2.0km x 1.5kmぐらいの範囲の都市動線を模式化しています。
スラム内の主要点をスロープでシステマチックに繋げることによって、牛車での垂直方向の移動を可能にし、同時に自然勾配を利用した排水経路を確保、基本的には電力や車の力を借りずに縦に伸びる街を成立させることができないかという試みです。
これだけでは何がなんだかわからないと思いますが…
ただ、ナイーブであることが許されるのが学生の特権とは言え、それでも少し無理がありました。
上に書いた、アプローチがずれていたというやつです。
結局、模型を作るのに1ヶ月近くかかりましたが、その後すぐボツとなりました。
とは言え、この模型、まだ大きな可能性が残されていると僕は感じています。
例えば、もっと大きな都市スケールだったらどうか。
建築の構造体としてはどうだろう。
立体駐車場は。
それとも逆に家具の様に小さいものだったら。
そうやって考えていくと、少し面白くありませんか。
ということで、これは僕が今だに温めているアイディアです。
ひっそりと。
いつか何かに応用できるのではと思っています。
どのボツ案も一つのアイディアであることに変わりはないのですから、「ボツ=ムダ」ということではありません。
これは非常に大切なポイントだと思います。
ちなみに、こちらがそのプロジェクトの最終提案の断面図です。
根底の考え方は共通しているのですが、全く異なる意匠です。
画面では小さいですが、実際には2m近い長さの図面となりました。
最後に。
バングラデシュでの経験はその後の僕のデザインアプローチに非常に大きな影響を与えました。
ものづくりのモラルや、建築デザインの倫理観についてより深く考えるようになりました。
下の写真はスラムへと向かう渡し船の上からの一枚です。
こちらついてもまた別の機会に。
それでは。