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記憶の継承をテーマとしたプロジェクトでした。都市部の密集した住宅街には珍しい平屋の木造住宅です。早くに奥様を亡くされ、長くお一人住まいを続けて来られたお客様が、70歳を迎えお仕事の第一線から退かれるという、まさに人生の節目となるタイミングに、新しいご自宅の設計をご依頼いただきました。

当初、ご家族で過ごされたご自宅のフルリノベーションとして始まったプロジェクトでしたが、築60年を超えた建物の構造部の劣化は激しく、コストと安全性のバランスを取ることが困難であったため、新築の建て替え工事へとプロジェクトの舵を切ったという経緯がありました。そこで新しい設計では、もともとのご自宅が宿していた”建築の質感”をそのまま引き受け、さらなる時を重ねることによって、新たな成熟を続ける住宅のデザインを目指しています。空間のプロポーションや窓からの景色を大切に引き継ぐことで、昔の家とともにある”記憶”と、新しい家での”これから”が、柔らくオーバーラップするような日常を送っていただきたいと考えました。一方で、デザインアプローチとして決してノスタルジーに浸ることなく、以前のご自宅と同じ時の流れの延長線上に、現代建築としての新しいデザインを位置づけることを強く意識しています。書斎からリビング越しに見える和室の眺めや、天窓まわりの立体的な造形などは、TO邸のデザインの象徴的な部分です。

新しい間取り作りは、お客様がご高齢ということもあり、長く親しまれた以前のご自宅から部屋同士の関係を大きく変えない、ということをスタート地点としました。その上で、書斎など、今後の生活に必要となる新しい要素を余すこと無く取り入れ、再び建物全体を構成しなおすという設計手法を選択しています。お客様が特に重要視されていたのが(将来的な可能性としての)車椅子生活への対応と介護動線の確保でした。このご要望に対しては、通用口から車椅子用のスロープ距離の確保、建物内はバリアフリー、扉は全て引き戸、主要な扉の開口幅は有効1,170mm(一般的には750mm前後)、手すり設置用の下地の準備などの対策を盛り込んでいます。また、寝室・洗面・水回りはコンパクトに集約し、キッチン・ダイニングを含めた小さな回遊動線を取り入れることで、日常生活の利便性にも重点を置きました。

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所在地 : 非公開

用途 : 個人住宅

敷地面積 : 160㎡

建築面積 : 90㎡

延床面積 : 90㎡

構造・規模 : 木造平屋建て

期間 : 2015-2017

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和室床の間意匠検討模型

解体直前の旧ご自宅

解体直前の旧ご自宅